2010/03/29

第2章 住宅性能表示制度の成立/2.1 はじめに

本章では韓国の住宅性能表示制度の成立を考察し、制度の枠組みとその市場の補完の特性を解明することを目的とする。近年の韓国における住宅の商品化の進展に伴い、次の3つの問題を指摘することができる。第1に、住宅事情の階層差や地域差が進んでいる。資本主義社会では需要者の経済力が選択できる住宅の質を規定してしまうために高所得層ほど住宅状態を改善でき、住宅難は低所得層にしわ寄せされることになった。いわゆる、「アフォーダビリティ(負担能力)」問題である。更に住宅商品の高級化やブランド化が進み、社会的に富の象徴、奢侈消費の助長等の問題が現れている。第2に、住宅の公共財的側面が市場機構のなかで欠落している。古典的住宅難は克服されているが、供給者は基本的に営利を目的としているために経営的に有利な特定タイプに集中し、多様性、維持管理や景観等に計画的に十分対応していない。第3に、品質及び価格をめぐる消費者問題が発生している。欠陥問題や価格問題、居住性の不満等のトラブルは、主に需要者に大きな苦痛及び被害を与えている。こうした問題は住宅取得や選択において住宅商品に関する情報が需要者に充分提供されていないことに関係が深い。このことにより品質及び価格に対する需要者側の不信及び不安は高まり、供給者との紛争を増加させており、住宅市場の質を低下させているといえる。

住宅性能表示制度は、主に上記の第3の住宅問題に対応して施行されているといえる。松本(2006)[1]によると、住宅の個別性、生産段階での不安定要因、生産に要する時間の長さ、性能や品質を計測することの困難さ、高い価格などの特徴によって、住宅の需要者は住宅を取得する際に、建築物の欠陥(品質のリスク)、契約の不履行(契約リスク)、選択の失敗(選択のリスク)等に直面している。こうした住宅商品をめぐる不確実性を減らすために住宅性能表示制度は品質の情報の開示、即ち、住宅の性能情報を公開させ、需要者保護及び自己責任の原則の下で需要者による住宅選択を図るものである。従って、韓国の住宅性能表示制度の導入要因と制度的枠組みの成立(以下住宅性能表示制度の成立)は、住宅の商品化をめぐる住宅問題に規定されるものであり、この問題がいかなる事情によることかについて解明する必要があり、分譲制度の特徴に注目する必要がある。韓国の分譲制度は住宅市場の問題と住宅政策との関係に照応する累積的な結果だからである[2]。

研究の方法については、先ず、韓国の住宅政策に関連した文献考察を通じて、韓国の分譲制度を中心にその形成と住宅政策の機能、需要者保護の行政の展開等を解明し、韓国の住宅性能表示制度が置かれた状況(住宅性能表示制度の成立の前提条件)を明らかにした。次に制度の形成の経緯、法律体系及び仕組み等に関連した文献考察に加え、制度の導入時に研究機関(2つの機関)・認定機関(3つの機関)の関係者等のヒアリング調査や資料収集等を行い、住宅性能表示制度の導入要因と制度の仕組みの特徴を解明した。最後にこうした韓国の住宅性能表示制度の成立の特徴を日本との比較・検討を通じて、制度の導入要因、制度の枠組み等の相違点を考察し、両国の市場の補完の特徴を解明する。


[1] 参考文献6)
[2] 韓国の住宅市場の問題の事情を理解するためには因果関係の単線的で決定論的な認識より原因に対する結果の反作用によって定義される認識(再帰的因果関係)が必要である。

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