2010/03/26

第1章 序論/1.3 研究の位置付け/1.3.2 日本における住宅性能表示制度に関する研究

日本において住宅性能表示制度に関する研究を制度が施行された始点を重心で以前と以後に分けてみると、先ず、住宅の量的不足が解消された1970年代頃に、仕様規定から(一部)性能規定へや行政ニーズから需要者ニーズへ対応という性能研究の転換期を迎え、この頃から建設省や住宅公団の関連する開発や調査研究が盛んになり、JISにおいても性能のものさしのとして標準化を図るような試みもあった。性能発注の形をとったパイロットハウス(建設省,1970)や芦屋浜高層住宅、ハウス55(建設省・通産省,1976)がある[1]。また、ユーザー向けの住宅性能総合評価システムの開発(建築研究所,1973-1978)[2]、及び住宅性能表示制度・方法の研究(住都公団,1985-1986)[3]があった。特に、分譲マンションに対して性能表示制度の導入のための調査・検討が行われ、制度の目的と仕組み、表示の内容と方法等の素案がまとめられた(建設省,1981-1982)[4]が、供給者の反対、需要者の認識不足、性能の評価技術不足等により施行することができなかった。更に、1980年末から需要者が良質な住宅を手に入れるように的確な情報提供と良質な住宅ストック形成などを図るために住情報提供体制の整備の検討が始まった(ベターリビング,1988-1991)[5]。1990年代には、本格的な制度化に向けてハウスジャパン・プロ(通商産業省,1995-2000)やマンション総プロ(国土交通省,1997-2002)研究が進行され、表示するべき性能項目やこの方法に関する研究が行われて、住宅性能表示制度の施行のベース研究となった[6]。

次に2000年代初の制度の施行直後に同制度の導入に関わる論争があった。鈴木(2000)[7]は、制度が施行されると、大手企業が有利となること、性能が住宅の良さを代表する指標だとの誤った概念が生じること、評価基準の不備な点等を指摘し社会に及ぼす影響及び問題点について懸念を示した。これに対し古瀬(2001)[8]は需要者の苦しい状況に対し、とりあえず、物理的条件を整備し社会的な要望への対応が必要であり、制度の導入の不可避性を示した。しかし若山(2001)[9]は、クレーム・製造物責任・規制緩和という社会的な流れのなかに同制度の導入の不可避な面があっても、法律である以上、表示の力の作用の実態に注目した議論の必要性を示した。

こうした懸念にもかかわらず普及が徐々に進むにつれ、その普及の実績に基づき、制度に関する普及実態及び有効性(実効性)等を明らかにする調査及び研究が行われている。先ず、需要者の受容の観点からみると、研究対象は住宅購入予定者から住宅購入者へ、研究内容は制度に関する認知度や重要度から制度の利用の評価へ進んだ。井上ら(2002・2003)[10]や久木(2003)[11]の研究は住宅購入予定者を調査対象にとした認知度や重要度の関連研究である。高井ら(2004・2005)[12]は認定住宅の購入者を対象として制度の受容と評価の実態調査から制度の機能的な問題点を指摘しメリットを与える方策を提案した。一棟(2004)[13]は需要者の支援ツールとしての任意制度の限界と表示項目の内容の分かりにくさを指摘しており、松本(1999・2004)[14]は住宅市場の整備対策としての意義と限界を指摘した上、フランスのカルテル制度との比較を通じて制度を巡る論点を取り上げた。藤澤ら(2004)[15]は制度が住宅価格に与える影響と住宅流通市場で評価書が機能していない状況を指摘しており、井出(2004)[16]は情報の非対称性が住宅市場に与える悪影響を示した。

一方、供給者の観点からみると、高井(2002)[17]は、マンション供給者を対象に意識及び評価の調査を行い、利用の実態、全体的に評価、問題点等を把握した。榎本(2004)[18]は生産者の立場からの実務に基づいて問題点を指摘した。一棟(2004)[19]は、住宅性能表示制度に関する情報源は供給者に依存し、販売促進用ツールとして販売業者から普及される傾向を示した。また藤澤ら(2004)[20]は、販売促進に利用される新築設計評価書の再考が必要であり、住宅の仲介サイドから、制度の実効性に関する問題点を指摘した。更に松村(2006)[21]は、多くの住宅生産関係者が共通の知識をもつことができるようになったことを評価したが、一戸建注文住宅と賃貸集合住宅の分野での利用のモチベーションや中小規模の住宅生産者にとってメリットの不明さが普及の阻害要因となり、改善余地があることを示した。

なお中城(2006)[22]は、同制度の普及促進のために供給者サイドの努力と責任による需要者保護を見直すとともに、住宅の取得から売却まで需要者が性能を意識する局面を考慮し住宅性能表示の多面的利用を示している。これらの研究は制度の意義に着目し需要者の支援を念頭においた制度の充実を目指したものであり、韓国にも示唆を与えるところが多いといえる。


[1] 参考文献71)
[2] 参考文献72)
[3] 参考文献73),74)
[4] 参考文献75)
[5] 本論文5章の5.2.1を参考
[6] 参考文献76),77)
[7] 参考文献78)
[8] 参考文献79)
[9] 参考文献79)
[10] 参考文献80),81)
[11] 参考文献82)
[12] 参考文献84),85)
[13] 参考文献86)
[14] 参考文献34),87)
[15] 参考文献88)
[16] 参考文献29)
[17] 参考文献83)
[18] 参考文献89)
[19] 参考文献86)
[20] 参考文献88)
[21] 参考文献90)
[22] 参考文献91)

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