2010/03/29

第2章 住宅性能表示制度の成立/2.2 韓国の分譲制度/2.2.2 住宅建設支援財源と住宅政策の機能

(1)国民住宅基金
先分譲制度が主流となった韓国では、住宅市場において規制が厳格である。先分譲に伴う問題点、即ち、契約不履行、欠陥問題、供給者の倒産、投機問題に対応するために、韓国の行政は分譲制度に深く介入している。需要者のリスク等の問題に対応するために供給者に登録業者制、分譲価格の統制や住宅建設基準等が行われている。また需要者には、無住宅者への住宅供給ができるように入居者の資格が厳しくなり、先分譲制度の悪用を防ぐために投機規制が行われる[1]。こうした行政の介入の論理を理解するために、図2-3に示したように先分譲制を支える建設資金、即ち、「国民住宅基金(1981)」[2]の性格に注目する必要がある。住宅建設促進法の制定以降、住宅建設及び購入資金を支援するために国民住宅基金が助成・投入されてきた。これは公共住宅資金と呼ばれている。韓国ではこれにより支援を受けた分譲住宅や賃貸住宅は公共住宅といわれているが、日本や西欧の公的投資による公共住宅(公営住宅や社会住宅)とは異なる意味である。1980年代末から助成されている国家財源(1989)は、主に公共賃貸住宅の建設支援に使われているが、国民住宅基金の規模に比べても非常に少ない。公共分譲住宅(国民住宅)は殆どが国民住宅基金によるものである[3]。

図2-3 韓国の分譲住宅制度の枠組み 

表2-1に示したように国民住宅等(公共事業者)と民間建設中型国民住宅(民間住宅事業者)は、国民住宅基金の支援をうけたものであるが、民営住宅は国民住宅基金の支援をうけないで建設されたものである。現行の分譲制度では、民営住宅も公共住宅と一緒に仕組んでいる。住宅を取得しようとする需要者は、入居者選定資格を付与する請約通帳(請約貯蓄、請約預金、請約賦金等)が必ず必要である。それによって形成された財源は、国民住宅基金に統合されて運用される。無住宅者を対象に85㎡以下の住宅を建設資金の支援と低取得者の購入等を支援するための国民住宅基金は、公的性格にもかかわらず、国の支援は極めて少ない。財政請約通帳預金と住宅債券の比重が大きい。住宅債券も住宅購入者から充当することになるため、殆どが需要者による基金であるといえる。さらに建設資金を供給し早く回収する資金運用方式は、永久賃貸住宅より短期・長期賃貸住宅や分譲住宅の建設を支援することになった[4]。

表2-1 韓国の分譲住宅の類型による入居資格

(2)住宅政策の機能と公共の役割 
国民住宅基金という公的資金を国が執行する形となっているが、国民住宅基金の性格に加え住宅政策の機能を考えると、国家財政が不足な状況において緊急な住宅不足を解消するために民間資本を活用した仕組みである。そのなかで持家政策は、住宅取得において需要者の負担原則が適用された「社会資本形成的機能」から評価されるものである。しかしながら、先分譲制に伴うリスクから需要者保護の措置や無住宅者の優先供給等の分譲制度は「社会福祉的機能」から評価されるものである。このような住宅政策は住宅の量的不足を早く解消させてきたといえるが、主に中高所得者の住宅問題に果たしてきたといえる。1980年代末に国家財政を投入し公共賃貸住宅(永久賃貸住宅)が供給された点を考えると、無住宅者の優先供給の原則や分譲価格の規制は低所得層に向けた住宅政策の社会福祉的機能であろう。

こうした韓国の住宅供給政策は、国家財政による公共賃貸住宅や社会住宅の公共住宅の供給を通じて住宅市場を補完し持家住宅の普及が進んできた先進資本社会の住宅供給政策とは異なる。即ち、韓国の場合は初めから民間資本を通じて持家住宅の普及が進んできたといえる。こうした住宅政策の推進は1960年代初めの誕生した権威的な政府に関連が深い[5]。1962年から「経済開発5箇年計画」にもとで国家主導の産業化の政策が推進される中で住宅供給政策は1950年代の救護・福祉的アプローチから産業的アプローチへ転換し住宅の量的不足を解消しようとした[6]。韓国の政府の産業経済の重視政策によって住宅政策の公的投資の犠牲をもたらしたが、1970年代初めから民間投資による大量供給のための制度インフラを整備し分譲住宅市場を活性化させながら住宅市場を統制する「国家主義市場体制(LIM,2002)」[7]を構築してきたといえる。

韓国における1965年から2005年までの年度別の住宅建設実績を図2-4に示したが、公共による住宅供給の役割を把握するために経済開発計画期間別の住宅供給実績を図2-5に示す。図2-5の左のグラフは住宅供給の主体による住宅供給の実績であり、公共が3.6割合、民間が6.4割合を占めている。しかし、公共が建設した永久賃貸住宅は極めて少ない。図2-5の右に示したように代表的な公共機関である大韓住宅公社の場合をみると、建設実績で永久賃貸住宅は1.1割合しか占めていない。短期・長期賃貸住宅は設定賃貸期間が経って分譲に転換されるために厳格にいうと、欧州や日本の社会住宅や公営住宅とは言いにくい[8]。こうした収支打算的な公共の住宅供給は公的投資が住宅市場を補完していないことを意味しており、その意味から韓国の住宅市場は「跛行的市場(HA,2006)」[9]ということができる。

図2-4 韓国の住宅建設実績(1965-2005)[10] 

このように住宅建設を民間投資に依存した韓国の住宅供給政策は大量の住宅建設を可能とした一方、富の分配、低所得層の住宅不安、資本の非生産的活動による経済的負担の増加等、複 合的な社会・経済問題をもたらし、住宅市場や不動産市場の安定が大きな課題となっている。また、アパートによる住居様式再編、住居環境の悪化等があまり重視されなかった。公共は公的投資に代わって民間投資を図り、主に住宅供給において分譲住宅価格の規制、住宅供給の管理等を通じてアフォーダビリティ問題に対応してきたといえる。

図2-5 韓国の第1-8次経済開発計画期間別の住宅供給実績(1962-2001)[11]


[1] 参考文献13)によると、無住宅家口とは、実所得とは関係なく、自家(持家)を所有していない全ての賃借家口(世帯)を示す。しかしながら、賃借家口は必ずしも低所得層家口とはいえない側面がある。 
[2] 参考文献13)によると、住宅建設促進法に基づき1981年7月に設立さらた公共住宅金融である。
[3] 参考文献14)の「2006年度住宅総合計画(2006.3)」によると、公共(賃貸)住宅10万戸、公共(分譲)住宅は4.1万戸が支援され建設された。民間住宅(民営住宅)は、32.2万戸が建設されている。また、2005年の住宅資金支援の実績をみると、政府財政は1兆1948億Won、国民住宅基金は10兆1170億Wonとなっている。
[4] 短期賃貸住宅は、建設当時に賃貸期間が1年で設定された賃貸住宅である。長期賃貸住宅は、5年、10年、30年等が設定された5年以上の賃貸住宅をさす。公共や民間が供給しており、賃貸期間以降には、分譲への転換が可能である。永久賃貸住宅は言葉の通り期間設定がない賃貸住宅であり、日本の公営住宅のようなものである。
[5] 参考文献11)によると、1950年代の社会・経済は、南北分断の状況に伴う政治・理念的な葛藤と、商業資本による経済活動が中心となった。しかし、1963年に中央集権的な権威主義政府が誕生し輸出志向的工業化を通じ富国強兵、自主自立などを達成しようとした。
[6] 参考文献11)によると、このような点は当時の開発途上国が政界銀行の戦略に従っう「自助住宅建設方式」を試したのは相反されることだと指摘されている。第2次経済開発5ヶ年期間(1967-1971)中の住宅部門の政策目標とは住宅建設は民間主導型とするようにして政策はそれを支援して韓国住宅金庫(1967)の設立と住宅債券の発行を通じて住宅部門の財源を作った。税金の減免や住宅建築許可手順の簡素化や住宅資材生産の育成などの支援策を行って民間建設を促進した。
[7] 参考文献11)
[8] 参考文献16)
[9] 参考文献16)によると、韓国の住宅政策が市場モデルに基づいたもののためにこれを強調している。
[10] 参考文献15)を参考して作成した。
[11] 参考文献16)による大韓住宅公社の「住宅統計便覧2003」を参考し再作成。賃貸住宅には短期(1年)、長期(5年/20年)、永久賃貸、公共賃貸や国民賃貸住宅等があるが、永久賃貸期間を抜いて賃貸期間以後に分譲に転換することができる。1967年から1996年まで建設され、現在ほぼ分譲へ転換が推定される。また、1992年から公共賃貸住宅(5年/10年)と国民賃貸住宅(30年)等が建設されている。

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