2010/03/29

第2章 住宅性能表示制度の成立/2.2 韓国の分譲制度/2.2.3 需要者保護に向けた行政

(1)分譲価格の規制 
韓国における住宅価格の上昇の原因は、需給の不均衡と資本の非生産的活動(投機)が指摘することができるが、前者から後者へ移行した傾向がみられる。住宅価格の上昇の問題は、公共賃貸住宅や社会住宅等が少ない韓国の住宅事情において社会福祉的に重大な問題を意味する[1]。住宅分譲価格の統制は、公営住宅法(1963年制定)によって最初に導入されたが民間住宅の価格は規制されなかった。初期の住宅建設促進法でも公共資金の支援を受けた住宅に限り規制が行った。民間住宅に向け分譲価格の規制が始まったのが1970年代末の分譲価格の高騰にあった。

1960年代末に各種の開発事業の推進に伴い、物価上昇、経済成長と共に増加した中産層は、余裕資金を不動産に投資する傾向が始まった[2]。初めに不動産投機が発生し、「不動産投機抑制に関する特別措置法(1967.11)」が制定された。1970年代の住宅供給建設のための制度整備と産業化が進み、大量の住宅が建設供給され、1970年末に年間30万戸(1978年)に達した。その状況でアパートの商品を対象とした不動産投機が本格的に始まった。ソウル市の分譲アパートの分譲価格の急騰が社会的問題となった。初めに民間アパートに対する分譲価格の統制が始まった[3]。1977年2月の住宅建設促進法の改定を通じ、民間建設住宅に対しても分譲価格の規制が(承認制)が始まった。更に同年に国民住宅に適用した「標準建設費」を民間住宅にも適用することとなった[4]。供給者は住宅建設促進法によって各種の特恵を受けながら暴利を得ている疑いが高くなった[5]。

一方、無住宅者に優先的に住宅が供給されるように「国民住宅優先供給に関する規則(1977.8制定)」が制定されたが、投機が民営住宅まで拡大され、民営住宅も対象とする「住宅供給に関する規則(1978.5制定)」が制定された。さらに政府は「8.8不動産対策(1978)」を発表した。以降ソウルの土地や住宅価格が急落し、未分譲のアパート(売残りの物件)が増加し、住宅建設の量も急速に減少した。これは民間金融に依存した韓国の住宅供給体制の矛盾が露呈した事件であるといわれている。しかしながら、分譲価格の統制は分譲価格が不動産市場の価格より低いため、規制にもかかわらず更に住宅を対象とした投機は蔓延した。1997年末に分譲価格の規制が廃止(住宅分譲価原価連動制施行指針廃止12.30)されるまで規制が緩和されてきたが、規制の連続であったといえる。また、供給者はより利益を得るために分譲価格の規制を統制されていない対象へ住宅事業を拡大した[6]。

しかし、1998年から分譲価格の自由化は住宅市場の新しい転機をもたらした。韓国は1990年末の経済危機以降、住宅や不動産市場において2つの大きな変化を迎えた。第1には、住宅建設会社が殆ど倒産した一方、資本蓄積してきた大手の財閥系列の建設社に再編された。供給者は本格的にブランド戦略を通じてアパートの商品に仕掛けた。内装材や設備等の高級化や面積の大型化、住棟の外観や団地内の外部空間の充実等、差別化が進んだ。しかしながら、2000年代初に再び分譲価格の高騰の社会的問題が起こった。再度2005年より分譲価格の規制が行われている[7]。第2には、IT技術と不動産情報の融合である。IT技術や情報化の技術の発展により主に不動産価格の情報化が進んだ。また2000年以降PCの普及とともにインターネットの普及が急速に進む中で、インターネットに基づいた多くの不動産情報提供会社が出現した。不動産情報提供会社は不動産仲介会社と協力しネットワークを構築し、全国の物件の取引価格の情報をリアルタイムに供給するようになった。即ち、既存の不動産投機が大衆に広まった。韓国社会において住宅の商品は、資産増殖の手段、投機の対象となったといえる。

(2)住宅建設基準と監理制度等
供給者は住宅建設促進法による「承認」を受けなければならない(住宅法第9条)[8]。住宅事業の効率的支援と共に、欠陥問題や瑕疵補修の問題に対する需要者の不安と不満に対応するために国が住宅事業を直接に管理するようになった。主に供給者(住宅建設事業者)の資格、住宅建設基準、監理制度等が整備されてきた。先ず、20戸以上の住宅事業の供給者は住宅建設業登録(住宅開発業体登録制度、1977.12制定)が必要である[9]。先分譲に伴う需要者のリスクと分譲価格の規制に伴う品質の低下を防ぐための行政措置として、前者は、主に「住宅建設供給に関する規則(部令)」、後者は「住宅建設基準等に関する規定(大統領令)」や「住宅建設基準等に関する規定(部令)」に定められている。「住宅建設基準等に関する規定(部令)」には、住宅の配置・世帯界壁・構造耐力等に関する住宅建設基準と住宅団地内の付帯施設と福利施設(共用施設)の設置基準、そして住宅の規模と規模別建設比率等が設けられている[10]。

最近、最低住居基準(建設交通部公告第2004-173号)も定まられており、質的指標として示し始めた。また、住宅建設工事は「建設産業基本法」に基づき、建設業者として土木建築工事業又、建築工事業の登録した者が行わなければならない。また、欠陥住宅の問題に対応するために、1994年に住宅建設促進法に監理制度を改めて導入した。従来には「建築法」と「建築士法」によって建築主が任意で監理者を指定する仕組みであったが、監理者の独立性の不足で欠陥住宅の原因となった。そのために、監理者の指定権者を自治体の長として「建築士法」や「建設技術管理法」による監理者を指定することになった(住宅法第24条)[11]。また、住宅建設事業が完了した場合、自治体の長の使用検査を受けなければならない(住宅法第29条)。使用検査を受けたのは、使用承認・竣工検査及び竣工認可等を意味する。最後に先分譲に伴う国土海洋部長官指定の保険会社や大韓保証株式会社に「住宅保証」が求められている。

(3)入住者募集公告(以下入居者募集広告) 
「住宅供給に関する規則(第8条)」によると、事業主体が入居者を募集する際に公開募集で「入居者募集公告案」等を用意し市長の承認を受けなければならない。市長は分譲する5日前に住宅供給申請者が住宅供給契約締結時に知らせなければならない事項、その他の必要な事項について開示公告した後、別の案内書を作成し住宅供給申請者に交付させることとなる[12]。それらの内容には事業主体名、施工業者名や、物件情報、入居者へ融資支援、手続き等があり、その以外にも分譲価上限制適用住宅の分譲価公開、建築費加算費用の認定を受けた住宅性能表示等が定められている[13]。図2-6は日刊新聞に載せられた物件の「入居者募集公告」による広告である。

図2-6 日刊新聞に記載された「G物件」の入居者募集公告(認定物件) 


[1] 参考文献11)によると、韓国の公共賃貸住宅は1971年大韓住宅公社のソウルに供給した300戸から始まるが、その実績は1970年中盤まで毎年5000-7000戸に過ぎない。さらに賃貸期間が1年であり、この後、入居者に分譲された。これが1980年初の賃貸住宅育成方案の発表(1982)、賃貸住宅建設促進法の制定(1984.12)、都市永世民住居安定特別対策(永久賃貸住宅の導入,1989)までの低所得者のための政府の補助による公共賃貸住宅の現実であった。
[2] 参考文献11)
[3] 参考文献11)によると、1977年のソウル市でアパート開発業者の暴利をせしめる世論が高まり、ソウル市当局はソウル市が建てられたアパートより80-100%、住宅公社アパートより40%が高かったのを発表した。ソウル市は暴利を取り締まり、価格安定及び公正取引法に基づき、価格の上限を設定する方案を検討することをしめした。
[4] 参考文献11)によると、1978年初のソウルの分譲価格は480,000Won/坪の水準であったが、5月に500,000Won/坪、7月に700,000Won/坪に急騰した。
[5] 参考文献11)によると、当時行政は供給者の住宅事業に参加を促進するために税金減免や建築規制の緩和等を行った。例えば、供給者は付加価値税の10%の免除、アパートの販売に伴う資本利得の25%に該当分しか特別法人税の徴収、専用85㎡以下の小規模アパートの場合は付加価値税の完全免除、供給者の所有の土地にアパートを建設すると、譲渡税の免除、法人税は土地を購入した実価格ではなく分譲視点から鑑定価格を基準とした。
[6] 結局、殆どが規制の対象となったが、1980年代の高級連立住宅の開発、組合住宅建設、1990年代の住商復合アパートの建設等は体表的物件である。
[7] 参考文献13)によると、分譲価上限制の対象を公共宅地内85㎡以下の共同住宅(2005.3)から拡大した(2007.9)。
[8] 住宅設計と施行過程、住宅の分譲手続き、分譲価格、瑕疵補修等の規定が定められた。
[9] 承認対象は最初には50戸以上の住宅を供給する場合のみに適用されたが、1970年代末の連立住宅の欠陥問題や詐欺分譲等の問題が起こって20戸以上に強化された。
[10] 例えは、共同住宅(アパート)は1世帯当たり297㎡以内、造園、団地内道路、保育施設、駐車場基準等が、供給世帯の数や住戸の面積により定められている。
[11] 参考文献13)によると300戸未満は、「建築士法」に従う建築士業務申告者と「建設技術管理法」に従う建築監理専門会社や総合監理専門会社、300戸以上は建築監理専門会社や総合監理専門会社を指定することができる。
[12] 日刊新聞、自治体のホームページ、建設地域の居住者が見やすい一定な場所に開示公告する。
[13] 公開項目には宅地費、工事費、設計費、監理費、付帯費、その他費用がある。

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