2010/03/30

第2章 住宅性能表示制度の成立/2.3 韓国の住宅性能表示制度の導入と枠組み/2.3.1 住宅性能表示制度の導入の原因

(1)分譲住宅価格の高騰(品質情報の開示の必要性) 
1999年から民営住宅に対する分譲価格の自由化で、高度化・多様化のニーズに対応、供給者は品質及び価格競争や技術競争等が期待された。しかし、分譲価格の自由化の以降、アパート商品のブランド戦略を通じ高級化や大型化が進み、分譲住宅価格が高騰した。分譲価格の自由化は分譲価格を市場機能に任せ、需要と供給の状況により価格が決定されるようにし、その価格に基づき消費と生産に対する意識決定ができる制度である。しかしながら、供給者は価格算定において原価上昇の要因より分譲周辺の市場価格やブランドの価値等を考慮し分譲価格を決めてきた。1970年代末のように再び供給者が暴利をせしめている疑いが再現された。

住宅市場において市場原理の活用は、供給者と需要者の責任のもとに合理的な価格策定と選択行動が求められる。住宅という商品は、高価の商品なので両者にとってリスクが大きい。供給者の高価格帯の未分譲の物件が増え、供給者の自身と共に住宅業界や経済にも負担となっている。また、高価格にもかかわらず入居後、居住性や品質をめぐる不満及び紛争が増え、必ずしも品質が十分とはいえない。韓国の住宅市場においてアパート商品のブランド化が盛んであることを図2-7に示したが、こうした問題は主に会社の規模やブランドのイメージ、投資価値や資産価値を重視する需要者の住宅選択の行動に責任が少なくない。しかし、需要者の合理的な選択が求められるにもかかわらず、品質に関する情報の流通や供給者から十分に提供されていないために性能情報を提供する社会的な仕組みが必要となったといえる。

図2-7 韓国のアパート商品のブランドとS社の住宅文化館の内部 

(2)居住性をめぐる紛争(性能基準の必要性)
近年、環境部の中央環境紛争調整委員会は建設会社への上下階の遮音問題に対する損害賠償支払いの判決(2003.5.1)を下した。アパートの内部騒音に関する紛争件数が毎年増加している中で、建設会社に層間騒音に対する損害賠償支払いを決定したのであり、関連法令の改定や整備に影響を及ぼし、性能規定の必要性が提起された。また環境部は、シックハウスに関する関心が高まっている中で、全国733世帯の新築共同住宅の室内空気質を測定した結果、有害物質に対する勧奨基準値を充足していなかったことが明らかになって、「新築共同住宅の室内空気質・測定公告制度(2004.5.30)」が施行されることになった。さらに、韓国消費者院の集計資料によると、住宅関連消費者請求件数が増加しており、アパートの商品の被害類型の中で品質関連被害が5割を超えている(2003-2007年)。こうした居住性をめぐる瑕疵や紛争が増加している中で不必要な需要者の不安及び紛争を減らすために、主に居住性に関する基準や規定の整備が求められている。 

(3)良質な住宅ストックの形成の推進(誘導基準の必要性) 
韓国の政府は、民間投資の住宅供給体制を構築し、住宅政策の目標を達成しようとしてきた。特に住宅の需要ギャップを緊急に解消するために大規模なアパートの供給を促進し、住宅事業は巨大資本と組織、技術をもつ大手企業に担われた。また、経営的に有利な壁式構造のアパートの供給に集中し、住宅事業は量産効果を得られた[1]。その結果、需要の多様性に十分対応ができず、経営的な安定や管理水準の維持も十分に図られない等、質的な問題が指摘されてきた。こうした問題が露呈したのが1990年代初から増えてきた建替え事業である。殆ど建替え事業の対象物件は殆ど築20年前後のアパート物件であって、資源浪費や環境問題等をもたらし社会・経済的な問題が深刻になった。今後、地球環境問題や資源問題等によって住宅産業分野にも住宅を長持ちさせることが求められているが、住宅市場において可変性や維持管理性等のような性能は重視されているとはいえない。こうした性能は公共に有益なものであるが、現実的に技術的規制が難しい。市場の選択を重視し、市場機能を果たすための仕掛けが求められているといえる。 


[1] 参考文献17)によると、韓国のように宅地を高密度で利用しなければならない場合、戸建てより大規模共同住宅が建設されやすくなる。さらに(共同住宅は)需要者によっても選好される。そのような大規模共同住宅の建設は住戸を追加的に増加させるほど住戸当たりの建設コストが減少する「規模の経済」を発生させることと記している。

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