本章では韓国の住宅性能表示制度の成立の特徴に対して以下の点を明らかにした。
(1)韓国の住宅性能表示制度の成立の前提条件(住宅問題の特徴)
1960年代初めから権威主義国家主導の発展戦略に従い、経済開発5ヵ年計画によって国家財政を産業近代化に優先的に配分することになった。住宅部門に対する公的投資の代わりに民間投資を促進するために1970年代初めに民間投資をベースとした制度インフラ(住宅建設促進法,1972制定)を構築した。しかし、急進的都市化や高度の経済成長の進行に伴う顕著な需給ギャップの発生と財源問題が住宅投資にしわ寄せされる結果、住宅商品を媒体として不動産投機が漫然し、住宅価格の高騰等、1970年末に初めにアフォーダビリティ問題(第1側面)が社会問題となった。このような問題に応じる住宅政策の選択は、公的投資ではなく、間接的手段による市場の介入であった。
民間投資の市場的発展に伴う問題に対して、民間分譲価格の統制(住宅供給に関する規則,1978制定)、住宅供給プロセスの規制、公的資金の助成(国民住宅基金,1981)等の分譲制度を確立し、住宅政策の社会福祉的機能を果たした。更に経済と政治の複雑な関係の中で住宅政策の市場志向的アプローチは、緊急な量の不足の問題を解消してきたが、住宅市場においてアフォーダビリティ問題が顕在となった。このような住宅政策と住宅市場の展開から派生した問題は住宅の公共性の欠如(第2側面)である。国家や自治体は財政資金の投入が少なかった状況の中で公共も主に市場ベースに基づく住宅供給の役割を果たしてきた。
また、住宅需給の問題は自助努力や自力開発によって解決するという基本的政策的スタンスは主に持家を供給・取得を支援・促進する政策が中心となり、新都市開発は言うまでなく都心の再開発・建替え事業の推進の大きな役割を果たしてきた。こうした住宅建設を含む建築・開発行為の規制(建築不自由の原則)と緩和は民間投資育成に加え景気対策や景気調整の機能を果たし、住宅政策の不公平性、非一貫性、臨機応変性の傾向を持っていくことになった。住宅は個別の私的財であると同時に社会的な公共財の位置に置かれるのであるが、こうした韓国の住宅政策や住宅市場の制度的状況において住宅を公共財として捉える意識は社会的に形成されにくくて遅くなったといえる。
(2)韓国の住宅性能表示制度の導入の要因と制度の枠組みの特徴
1999年の分譲価格の自由化以降、分譲価格の高騰(アフォーダビリティ問題)、居住性をめぐるトラブル(消費者保護や自己責任)、良質の住宅を形成する必要性(公共財性の確保)が高まり、特に分譲価格の問題は制度の導入において直接的な要因となっている。この意味で韓国の住宅市場において情報非対称性の問題はアフォーダビリティ問題につながっているといえる。需要者の選択のリスクを認識し、需要者による比較可能とするために情報公開を重視する市場の補完が行われたといえる。これは制度の仕組みに影響を与え、義務制、設計段階の評価等をもつ制度になった。
(3)日本と韓国の住宅性能表示制度の成立と住宅市場の補完の特徴
日本の欠陥住宅と韓国の分譲住宅価格の高騰の主な問題は情報非対称性にかかわり、同制度の導入の要因となっているが、この問題性格の違いにより、日本は情報の信頼性に向けた、韓国は情報の相互比較に向けた異なる住宅市場の補完の特徴を明らかにした。特に日本の制度は、情報非対称性の認識において需要者の安全のリスクの問題を重視し、住宅性能情報の信頼性を保するための市場の補完が行われたことを意味し、建築段階の評価、紛争処理機関等が求められており、任意制の下にも制度の役割を十分に果たすことができるといえる。
以上の結論を踏まえて、韓国と日本の住宅性能表示制度の成立と住宅市場の補完の特徴を表2-7に示す。韓国と日本ではほぼ同じ住宅性能表示制度が行われているが、表2-7に示したように住宅事情、住宅市場、住宅商品の差等の異なる状況に置かれていることが明らかになった。また、そこから生じる住宅問題の重みは両国の事情によって異なり、特に韓国の住宅性能表示制度の導入要因は主に分譲価格の問題となっているが、その根底にはアフォーダビリティの問題があり、これに韓国の住宅性能表示制度の枠組みが規定されたといえる。
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