2010/04/01

第3章 韓国の分譲集合住宅供給者の住宅性能表示制度に対する意識及び評価/3.1 はじめに

本章では、韓国の住宅性能表示制度が供給者への義務制として施行(2006)されている状況に注目し、供給者の住宅性能表示制度に対する意識及び評価の実態を明らかにした上で、制度の問題点及び課題を導き出することを目的とする。韓国の政府は住宅の量的不足を緊急に解消するために大規模な分譲集合住宅の供給を促進し、住宅事業は巨大資本と組織、技術をもつ大手企業に担われた。供給者は経営的に有利な壁式構造のアパート供給に集中し、住宅事業は規模の経済が発生しやすくなった。多様性や維持管理の配慮も十分に図られない等、量・質的な問題が露呈した。更に分譲価格の自由化(1999)以降、分譲価格は急騰しているが、品質の向上は十分なものと言えずに居住性をめぐるトラブルは多くなった。特に価格と品質を巡る紛争は「情報非対称性」に関連が深い。韓国の住宅性能表示制度は住宅の需要者が品質・性能等を比較できるようにして分譲価格の透明化だけではなく、住宅産業の生産慣行からの脱却及び品質の向上等を目指している。しかし、早急な制度化によって需要者側では制度に関する理解が不十分であり、供給者側では住宅の計画・設計及び事業等に実務的な困難等が見られている。更に2008年より義務制対象が拡大されるため[1]、改めて制度の充実に向けて検討が必要である。

研究の方法については、調査概要を表3-1に示す。施行初期にある韓国の状況を考慮した上で、本制度の直接的な対象となる分譲アパートを生産・供給する建築請負実績上位20圏の民間大手建設会社を選定し、制度に対する意識調査を行った[2]。第1次調査として担当者に郵送調査を行い、これに加え、第2次調査として調査回答社の中で訪問調査に応じた10名の回答者を対象としてヒアリング調査を行った。最後に、供給者の意識及び評価の実態に基づき、本制度に関する主要な論点を整理し、制度上から見られる諸問題と制度の充実に向けての課題を検討した。

表3-1 韓国の民間供給者の調査概要 


[1] 1000戸以上供給される住宅事業に限り義務付けられるものである(2006・2007年度までは2000戸以上とした)。
[2] 調査対象の選定では施行初期の事情を考慮しながら調査の精度を高めるために、供給戸数2000戸以上の住宅事業に義務付け制で行われる状況に着目し、本制度の施行に従い「直接的に影響を受ける供給者」及び「本制度に対する検討を行った供給者」に注目した。義務対象となる事業規模の大きさと業界の技術水準を考慮すると、しばらくの間、本制度の影響はすべての供給者ではなく、上位の大手建設会社に限られることになった。そして、2006年の施行前に上位10位圏の大手建設会社は、制度の検討を行ったことが確認されたが、その他の供給者の意識も含めるために20位圏まで調査の範囲を拡大した(2005年度の住宅供給実績の20位圏内の12の建設会社が含まれている-韓国住宅協会の内部資料)。なお、韓国の大手建設会社はディベロッパーとしての事業も並行して行っているため、本研究では生産者と供給者を総称し供給者で統一する。

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