2010/04/01

第3章 韓国の分譲集合住宅供給者の住宅性能表示制度に対する意識及び評価/3.3 韓国における住宅性能表示制度に関する論点と課題/3.3.3 紛争発生の可能性

供給者が一番心配していることは、表示性能と竣工後の性能が一致しない場合に生じる需要者とのトラブルである。特に建設段階の評価が設けられてないため、性能の検査や確認が難しくなっている。さらに、韓国の認定機関では客観的な性能保証を表明しているため、需要者に誤解を与え、性能表示と性能保証が混同され新たなトラブルが発生する可能性がある。

これを①保証問題と②紛争処理の問題に分けて考察すると、先ず、通常、表示された「性能」は、そのまま「保証」されると受け取られやすいが、住宅性能表示制度における性能は、性能に応じて級別された指標であって、性能そのものではないため、直接保証できないといわれている[1]。さらに、表示される等級や数値などは、合理的・客観的に設定された評価方法基準に従って評価された結果であるが、この範囲を超える居住者の実感や実測結果の程度について保証をするものではないことが示されている。従って、住宅性能評価書と契約内容との関係が曖昧であると、無用のトラブルを発生させる原因となる恐れがあると考えられる。そのため、日本では住宅供給者が請負契約(又は売買契約)の書面に住宅性能評価書やその写本を添付した場合や需要者に住宅性能評価やその写本を交付した場合には、住宅性能表示の評価書に表示された性能を有する住宅の建設工事を行うことを契約したものとみなすこととしている。反面韓国の場合は、評価書と契約書との関係が不明瞭になっており、供給者に対して実務的な困難を生じさせている。従って評価書と契約書との関係を明瞭にすることが必要であると考えられる。

次に、表示された性能が達成されていなかったといったトラブルが発生した場合は、②についての対策が必要である。韓国の場合、紛争処理は法廷の裁判に任せてきたが、最近、建築紛争調停委員会(建設交通部)や環境紛争調整委員会(環境部)で調停、仲裁ができるようになっている。しかし、紛争の内容・時点により、その利用は異なる。前者は、担保責任期間内の瑕疵の責任についての紛争の場合、後者は、担保責任期間に関わらず、住居環境に限り紛争の場合に利用することができる。また、住宅法により担保範囲・責任・期間及び紛争処理が定められているが、住宅性能表示制度との関係を考慮したものではないので、紛争処理機関と瑕疵担保範囲・責任等に関する法・制度の整備が必要であると考えられる。しかし、性能表示に従い、紛争の予防的機能を考えるなら、建設段階の評価の導入も考慮すべきであろう。


[1] 参考文献11)によると、松本(2004)は、表示性能は、設計理論に基づく仕様によって実現される水準の組み合わせを統合して「指標としての性能水準」に対応させているものであり、「ゆらぎ」があるため、表示された特定の性能水準が確実に実現されるのではないと示している。

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