2010/04/14

第4章 韓国の分譲集合住宅需要者の住宅選択と住宅性能に対する意識/4.3 合理的な住宅選択と住宅性能表示制度の普及をめぐる論点/4.3.2 住宅性能表示制度の普及をめぐる問題及び課題

(1)住宅性能表示制度の役割及び期待 
住宅性能表示制度は、住宅の質の問題に対し「対物的:社会資本形成的機能」と「対人的:社会福祉的機能」対策となり、総合的対策となる。対物的には、良質住宅ストック形成を目指した住宅計画の視点から評価できるものである。また、対人的には、合理的な住宅選択に向け消費者保護視点から評価できるものである。特に住宅の質の向上の視点で対人的な対策が重視される(住田,1988)[1]。上記の住宅選択をめぐる問題に対して、これらの対策として役割も期待することができる。しかし、K物件の事例のように社会浸透は十分とはいえない状況である。制度の定着及び受容をめぐる問題を運用、充実、基盤面から指摘し、その対応を探りたい。

(2)制度の運用面
最近、行政では義務対象の範囲(現在1000戸以上の団地)を拡大する方案が検討されている。また義務対象の以外に対しては、一昨年の中盤より分譲価格のインセンティブを与えて普及を促進しており、その影響より評価件数が増加している[2]。こうした意欲的な普及促進の対策にもかかわらず、義務やインセンティブがなくして制度の普及を予断することができない現状である。なおかつ供給者に依存する傾向が大きい。日本の場合、制度の普及が徐々に進んでいるが、需要者側から求められている事情に注目する必要がある。また、普及の程度が必ずしも制度の有効性や実効性を保障しないため、制度の需要を生み出すように制度の本来目的とする需要者に向けた制度の運用が求められており、その意味でより制度の充実と制度の基盤が重視される必要がある。

(3)制度の充実面
制度の充実面は「維持管理」や「監視・監督」を意味しているといえる。ます、維持管理については、技術の開発や普及に伴い、基準(項目や評価基準など)及び仕組みの実質的な効果が時間の経過とともに低下していく点に注意し、機動的に見直す体制を整備することが、制度の有効性を維持するうえで重要である(長谷川,2004)[3]。施行2年目を迎えた韓国の行政は、施行初期の問題を見直している。項目の追加、表示方法の改善(星印表示)等の検討が行われており、需要者に向け取り込んでいる。しかし、建設段階評価、紛争処理機関等が果たす機能及び役割に対する仕組みの補完は行われていないので、評価情報の信頼性を保つための制度的に補完が求められる。これらは、性能評価-情報開示-保証-紛争処理につながるパッケージを形づくることができ、今後制度の活用段階の推進するうえで重要となると考える。また、制度の執行のために正しく認定が行われているのか、あるいは正しく情報開示が行われているのかを監視・監督することが重要である。今回のK物件の評価情報の開示において供給者の消極的な取組みは、むしろ住宅性能表示制度の役割及び機能を反証していると考えられる。従って、情報開示が義務付けられても、このルールが遵守されていない事情に注目し、行政は単にルールを定めるだけではなく、そのルールが守られるような努力が求められる[4]。

(4)制度の基盤面
住宅性能表示制度は、社会的に求められる項目に基づき、特定水準が定められており、建築法や住宅法により設定された既存の値の以上の水準を制御し性能情報が開示されている。しかし、このような情報伝達手法は、需要者の意識実態で理解不足を示したように専門知識に乏しい需要者に混乱を与えるリスクがあると指摘されている。こうした混乱は、本来有効性の高い政策手法についても、その効果的な機能の発揮を阻害することとなるため、設定の考え方に関する情報を積極的に関係者に提供することが必要となる(長谷川,2004) [5]。その意味で需要者の認識水準を上げることが求められており、「直接手段」と「間接手段」をあげることができる。先ず、「直接手段」は、行政がマニュアル作成及び講習会の開催等を行うことであり、制度の初期の普及段階に重要な役割を果たすこととなる。しかし、韓国の場合は、これらの実績は十分とはいえない。次に「間接手段」は、情報媒体の活用することである。住宅性能表示制度のような需要者のための支援体制は、情報収集の費用を低下させることとなるが、制度の履行、情報開示に費用がかかっている。現在の供給者に依存する情報開示の体制には、その限界が見られる。
しかし、最近、情報技術の急速な発展は、情報収集や開示の費用を低下させることができると考えられる。住宅性能表示制度にかかわる第3者の情報媒体(物件情報誌や不動産情報サイト等)との融合を模索し、情報開示や情報取得しやすくなれるように、性能情報の流通体制の整備が求められる。これによって、ブランドイメージやメーカー規模に基づく住宅選択より住宅を総合的に評価し合理的な住宅選択を図るうえに役立つことができると考える。

[1] 参考文献12)
[2] 現在、「分譲価格の上限制」が行われているが、任意や義務で住宅性能制度の評価を受けて、住宅性能等級評価で総160点中の80点-95点以上となると、基本建築費の1-4%を加算することができる。なお、国土海洋部の内部資料(2008.7)によると、2008年5月現在、35件が評価を受けた。その内容は、2006年は2件、2007年は16件、2008年5月までは17件である。また、1000戸以上の物件(義務)は8件、1000戸未満の物件は27件であり、殆ど義務対象以外の物件である。
[3] 参考文献13)
[4] 参考文献14)によると、制度がその機能を果たすための本質的部分は、違反をつきとめる費用と処罰の厳格さである。
[5] 参考文献13)

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