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2010/04/14

第4章 韓国の分譲集合住宅需要者の住宅選択と住宅性能に対する意識/4.4 本章のまとめ

本章では韓国の(K物件)分譲集合住宅の需要者の受容特徴に対して以下の点を明らかにした。

(1)K物件の需要者の住宅需要及び選択の意識と住宅性能表示制度の浸透実態
①需要者は、住宅及び住環境より住宅品質に対する不満を高く示している。②住宅購入の目的は良い住宅に住みたいという希望や物件不足も高く示しているが、主にこれからの生活に備えるためであり、住宅購入の資金的な困難を最も高く示している。③住宅に関する情報は、供給者に依存する傾向が大きく、建築費の内訳や健康の配慮程度に関する情報の要求が多い。④住宅性能及び品質に関しては、自己の理解不足と供給者の説明の不足を高く示している。⑤需要者の4割以上が住宅性能制度を知らないことを示しており、供給者の情報開示が適切に行われていない。

(2)合理的な住宅選択をめぐる問題
需要者の意識を総合的に検討すると、需要者の住宅に対する資産価値への偏重意識と共に、供給者の性能情報開示と性能情報流通の不十分を指摘することができ、「住宅の質に関する意識」「住宅の質に関する情報開示」「住宅の質に関する情報流通」の適正化が求められる。

(3)住宅性能表示制度の普及をめぐる問題及び課題
制度の普及において「運用面:義務制や供給者に依存する普及政策→需要者に向け普及対策の必要」「充実面:評価情報の信頼性に向けた仕組みの不備と維持管理と監視・監督の問題→仕組みの補完と監視・監督体制の整備」「基盤面:需要者・供給者の制度に関する認識の不足と評価情報流通の問題→制度の広報や啓蒙と評価情報の流通体制の整備」に問題及び課題を指摘することができ、更なる検討が求められる。

(4)住宅性能表示制度の補完の方向 
以上より、合理的な住宅選択と住宅性能表示制度の普及をめぐる問題を再整理し、制度の補完の取組みに関する知見が得られており、これらを表4-2に示す。韓国における住宅性能表示制度の充実が求められているが、制度の実効性や有効性を図るためには、何よりも性能情報の流通体制等に関する制度の基盤整備が必要となり、特に性能情報の提供と伝達プロセスの整備が求められる。これらの整備を通じ社会的に住宅性能表示制度の浸透を図り、物件選択時、あるいは物件の維持管理や入居後の段階で問題発生時にも役立つことができると考える。

表4-2 韓国の住宅性能表示制度の補完に向けて取組み 

第4章 韓国の分譲集合住宅需要者の住宅選択と住宅性能に対する意識/4.3 合理的な住宅選択と住宅性能表示制度の普及をめぐる論点/4.3.2 住宅性能表示制度の普及をめぐる問題及び課題

(1)住宅性能表示制度の役割及び期待 
住宅性能表示制度は、住宅の質の問題に対し「対物的:社会資本形成的機能」と「対人的:社会福祉的機能」対策となり、総合的対策となる。対物的には、良質住宅ストック形成を目指した住宅計画の視点から評価できるものである。また、対人的には、合理的な住宅選択に向け消費者保護視点から評価できるものである。特に住宅の質の向上の視点で対人的な対策が重視される(住田,1988)[1]。上記の住宅選択をめぐる問題に対して、これらの対策として役割も期待することができる。しかし、K物件の事例のように社会浸透は十分とはいえない状況である。制度の定着及び受容をめぐる問題を運用、充実、基盤面から指摘し、その対応を探りたい。

(2)制度の運用面
最近、行政では義務対象の範囲(現在1000戸以上の団地)を拡大する方案が検討されている。また義務対象の以外に対しては、一昨年の中盤より分譲価格のインセンティブを与えて普及を促進しており、その影響より評価件数が増加している[2]。こうした意欲的な普及促進の対策にもかかわらず、義務やインセンティブがなくして制度の普及を予断することができない現状である。なおかつ供給者に依存する傾向が大きい。日本の場合、制度の普及が徐々に進んでいるが、需要者側から求められている事情に注目する必要がある。また、普及の程度が必ずしも制度の有効性や実効性を保障しないため、制度の需要を生み出すように制度の本来目的とする需要者に向けた制度の運用が求められており、その意味でより制度の充実と制度の基盤が重視される必要がある。

(3)制度の充実面
制度の充実面は「維持管理」や「監視・監督」を意味しているといえる。ます、維持管理については、技術の開発や普及に伴い、基準(項目や評価基準など)及び仕組みの実質的な効果が時間の経過とともに低下していく点に注意し、機動的に見直す体制を整備することが、制度の有効性を維持するうえで重要である(長谷川,2004)[3]。施行2年目を迎えた韓国の行政は、施行初期の問題を見直している。項目の追加、表示方法の改善(星印表示)等の検討が行われており、需要者に向け取り込んでいる。しかし、建設段階評価、紛争処理機関等が果たす機能及び役割に対する仕組みの補完は行われていないので、評価情報の信頼性を保つための制度的に補完が求められる。これらは、性能評価-情報開示-保証-紛争処理につながるパッケージを形づくることができ、今後制度の活用段階の推進するうえで重要となると考える。また、制度の執行のために正しく認定が行われているのか、あるいは正しく情報開示が行われているのかを監視・監督することが重要である。今回のK物件の評価情報の開示において供給者の消極的な取組みは、むしろ住宅性能表示制度の役割及び機能を反証していると考えられる。従って、情報開示が義務付けられても、このルールが遵守されていない事情に注目し、行政は単にルールを定めるだけではなく、そのルールが守られるような努力が求められる[4]。

(4)制度の基盤面
住宅性能表示制度は、社会的に求められる項目に基づき、特定水準が定められており、建築法や住宅法により設定された既存の値の以上の水準を制御し性能情報が開示されている。しかし、このような情報伝達手法は、需要者の意識実態で理解不足を示したように専門知識に乏しい需要者に混乱を与えるリスクがあると指摘されている。こうした混乱は、本来有効性の高い政策手法についても、その効果的な機能の発揮を阻害することとなるため、設定の考え方に関する情報を積極的に関係者に提供することが必要となる(長谷川,2004) [5]。その意味で需要者の認識水準を上げることが求められており、「直接手段」と「間接手段」をあげることができる。先ず、「直接手段」は、行政がマニュアル作成及び講習会の開催等を行うことであり、制度の初期の普及段階に重要な役割を果たすこととなる。しかし、韓国の場合は、これらの実績は十分とはいえない。次に「間接手段」は、情報媒体の活用することである。住宅性能表示制度のような需要者のための支援体制は、情報収集の費用を低下させることとなるが、制度の履行、情報開示に費用がかかっている。現在の供給者に依存する情報開示の体制には、その限界が見られる。
しかし、最近、情報技術の急速な発展は、情報収集や開示の費用を低下させることができると考えられる。住宅性能表示制度にかかわる第3者の情報媒体(物件情報誌や不動産情報サイト等)との融合を模索し、情報開示や情報取得しやすくなれるように、性能情報の流通体制の整備が求められる。これによって、ブランドイメージやメーカー規模に基づく住宅選択より住宅を総合的に評価し合理的な住宅選択を図るうえに役立つことができると考える。

[1] 参考文献12)
[2] 現在、「分譲価格の上限制」が行われているが、任意や義務で住宅性能制度の評価を受けて、住宅性能等級評価で総160点中の80点-95点以上となると、基本建築費の1-4%を加算することができる。なお、国土海洋部の内部資料(2008.7)によると、2008年5月現在、35件が評価を受けた。その内容は、2006年は2件、2007年は16件、2008年5月までは17件である。また、1000戸以上の物件(義務)は8件、1000戸未満の物件は27件であり、殆ど義務対象以外の物件である。
[3] 参考文献13)
[4] 参考文献14)によると、制度がその機能を果たすための本質的部分は、違反をつきとめる費用と処罰の厳格さである。
[5] 参考文献13)

第4章 韓国の分譲集合住宅需要者の住宅選択と住宅性能に対する意識/4.3 合理的な住宅選択と住宅性能表示制度の普及をめぐる論点/4.3.1 需要者の合理的な住宅選択をめぐる問題

(1)需要者の住宅の資産価値に偏重
K物件の需要者は、住宅購入の目的において主に資産形成を念頭に置いている[1]。これは、韓国におけるアパートという商品が経済的に収益性や安定性、換金性がよい商品であり、なおかつ社会的に富や身分の象徴となったということに関連が深い[2]。問題は、住宅を居住の対象より収益の対象とする状況が、需要者が自らの生活に適合する住宅を評価・選択することを難しくしていることにある。こうした背景には、市場機能に依存した住宅政策及び住宅供給体制にあると考える。住宅政策の社会福祉機能の不十分な中で、住宅需給の不均衡、持家政策により持家の経済的優位性が明らかになった。また、その流れの中で住宅の購入において投資や投機的動機も完全に否定することができない。さらに、住宅市場が建設市場から不動産市場にシフトしながら住宅の経済的価値は、建物より土地の価値(立地的条件)に左右される傾向が顕著となり、居住性等の住宅の質が与える影響は相対的に少なくなる。住宅の経済的価値の偏重のもとでは、経済的リスク、居住性をめぐる不満やトラブル等が起こりやすく、都市住宅の質や住宅市場の多様性の内部化等を妨げる恐れがあると考える。住宅を総合的に評価し適切な選択が求められているが、需要者の意識は十分とはいえない。

(2)供給者の住宅の品質の情報開示の不十分
韓国のアパートは、殆ど壁式構造で平面の構成等に標準化する傾向があり、取引対象としての個別性は低いため、価格や品質・性能の比較が容易なものとなっている。しかし、韓国の供給者は、事業的に性能よりブランドイメージに加え、外部空間や立地を主に重視しており、外部デザイン、内装材や設備の高級化が進んでいる[3]。居住性の向上に対する供給者の取組みを完全に否定することができないが、事業的に重視する性能は限られて、居住性の向上のための物的な計画は十分とはいえない。即ち、供給者は性能に基づいた居住性の向上より、ブランドイメージの戦略を通じて住宅商品の差別化を行ってきたといえる。また、分譲関連の業務が分業化され、案内人の説明、カタログ・チラシ、モデルハウスや展示物は、殆ど定型化の傾向もみられる。その中で供給者の情報開示は、物件情報や生活情報、投資的情報が中心となり、性能や品質に関する情報開示は少ない。更に性能表示が義務付けられた物件にもかかわらず、需要者の4割合以上が住宅性能表示制度を全然知らない状況であることは、大きな問題と指摘することができる[4]。

このように住宅性能に関する情報開示に消極的な背景には、需要者の認識不足を指摘することができるが、住宅性能表示制度による既存の取引のインセンティブ構造の変化を懸念していることを否定することができない。藪下(2002)[5]が示したモラルハザードのメカニズムを、供給者の品質の向上やトラブル防止のための行動に適用すると、トラブルの発生確率は、供給者が欠陥や瑕疵防止のための努力や支出に依存するものである。品質の情報が開示されていない中で内性的不確実性に直面した供給者は、品質の向上や欠陥防止のための行動を変化させることによって、発生確率の不確実に影響を及ぼし、便益を受けることとなり、この行動を過剰に行うならば、この現象がモラルハザードということができる。このような内性的不確実性の状況を避けるために、情報非対称性の状況を解消する必要があり、供給者の自発的な質の情報開示が求められることとなる。

(3)住宅の品質の情報流通の不十分
「より良い住宅にすみたい」を選択した需要者(34)は、殆ど「返済能力不足(18)」を示しているが、「住環境及び居住性能の情報の不足(4)」はあまり示されていない。これは、先ず、住宅に対する質的ニーズがあるが、購入資金の負担のため、住宅がなかなか得られない事情を示していると考えられる。韓国における分譲価格の高騰は、慢性的問題であり、分譲価格の自律化以降、再び顕著になった。分譲価格をめぐる論点の根源には、価格と品質の妥当性の疑問であり、さらに需要者の不信感は大きい。そのため、需要者は不足な情報として何よりも「建築費及び見積もりの情報」を求めているといえる。

次に住宅の性能に関する情報がなかなか得られない事情を指摘することができる。消費者の自己責任を重視する傾向がある韓国では、インターネットを基盤に価格や物件の情報開示に関する社会的整備が進んできたが、居住性等、品質の情報開示はあまり進んでない[6]。その理由の中では、数量的に表現が比較的容易な価格や物件情報に比べて、品質に関する情報には伝えることが困難な情報があるといわれている[7]。さらに品質の情報開示には、コストや評価技術等がかかり、情報の信頼性も問われる。こうした事情を踏まえて考えると、需要者が品質を含め総合的に住宅を評価し、適切な選択行動をとることができる社会的な整備は未だ十分とはいえない。そのために需要者の品質に関する情報収集を支援する体制の構築が求められることとなる。 


[1] 日本の事情とは非常に異なる。1988・1998・2003年度「住宅需要実態調査結果(国土交通省)」の資料によると、住宅が変化した理由として「資産形成」の割合は、4.6%(1988)、4.3%(1998)、6.1%(2003)にすぎない。
[2] 参考文献8),9)
[3] 参考文献2),3)
[4] 日本の場合、2001・2002・2003・2004・2005年度の「住宅性能表示制度アンケート調査報告書(国土交通省)」によると、現在の住宅が評価住宅であることの認知度に対して、「知らなかった」の割合は25.1%(2001)、8.8%(2002)、8.0%(2003)にすぎない。また、住宅性能表示制度の認知度について、「知っている」の割合は、84.0%(2001)、81.5%(2002)、87.9%(2003)、86.4%(2004)、83.9%(2005)となっている。
[5] 参考文献10)
[6] 参考文献11)によると、不動産情報の提供は、主にインターネットの媒体を通じて、行政は地価動向、土地取引動向を、民間は物件の取引価格を提供しており、市場情報、価格情報、投資情報、売買情報、分譲情報等が主流となっている。
[7] 参考文献10)

第4章 韓国の分譲集合住宅需要者の住宅選択と住宅性能に対する意識/4.2 K物件の需要者の住宅選択の意識と住宅性能表示制度の浸透の実態/4.2.3 需要者の住情報及び住宅性能に関する意識

(1)住宅購入(予定)の際に役立った情報媒体と不足な情報
需要者の役立った情報媒体、不足な情報を図4-4に示す。先ず、住宅を購入した際に役立った情報媒体は、「住宅展示場(57.1%)」が最も多く、「新聞(35.8%)」「インターネット(35.8%)」や「親戚や友人、知人(30.0%)」と続いている。需要者は、供給者、大衆媒体等に依存する傾向が多く見られており、近年、情報化の進展によりインターネット媒体の役割も目立っている。そのため、インターネット媒体を選択した需要者(n=30)を対象として検索内訳を再び尋ねたところ、「不動産分譲情報・価格情報のサイト(70.0%)」や「ニュース・記事(43.3%)」が上位を示し、「供給者(建設)サイト(33.3%)」「ポ-タルサイトの知識情報のQ&A(33.3%)」が続いた。しかし、ゼミ・講習会や住宅専門書籍による情報媒体(取得)は、あまり重視されていないことに見られる。

次に、不足な情報は、「建築費・見積もり(43.5%)」が最も多く、「健康に配慮した程度(40.0%)」となっており、最近、住宅をめぐる分譲価格と健康に関する需要者の関心が高く示されているといえる。ほとんどの項目で2割前後の低い回答があったが、その中で住宅の構造・工法、資材・部品等の住宅の物理的な情報のほかにも、地形・地域特性、建設及び供給者情報等が求められている。

図4-4 役立った情報媒体(左)と不足な情報(右)(N=85) 

(2)需要者の品質及び性能に関する意識
需要者の品質及び性能に関する意識を図4-5に示す。需要者は品質及び性能に関する高い関心を示したと考えられる。しかし、住宅品質及び性能の理解(非常に理解+やや理解:理解率:55.3%)、供給者側の説明(非常に満足+やや満足:満足率:45.2%)が十分とはいえないため、需要者と共に供給者の意識の改善余地があると考えられる。

図4-5 品質及び性能に関する意識(N=85)

第4章 韓国の分譲集合住宅需要者の住宅選択と住宅性能に対する意識/4.2 K物件の需要者の住宅選択の意識と住宅性能表示制度の浸透の実態/4.2.2 需要者の住宅需要に関する意識

(1)住宅及び住環境の評価 
 調査対象の需要者(契約者と訪問者)の属性については、「女性(64.3%)」「40代(42.9%)」「既婚(85.4%)」「4人家族(44.7%)」「会社員(35.3%)」「住宅購入経験1回(46.4%)」等が最も多い。また、従前の住宅特性は「持家(75.3%)」「地域:忠北(64.7%)」「アパート(80.0%)」、「築5年以下(55.3%)」「居住5年以下(74.1%)」「RC造(89.3%)」等が最も多い。 

先ず、従前の住宅及び住環境、住宅品質等に関する満足度を尋ねた。住宅及び住環境に対する総合評価(N=84)で、「非常に不満」が2.4%、「不満」が26.2%であり、不満率(非常に満足+満足)が28.6%となっている。また、住宅と住環境に対する評価で不満率は各々27.1%(N=84)、24.7%(N=85)となって、住居環境に大体に満足していると考えられる。しかし、住宅品質に対する評価では、不満率が38.5%(N=84)となり、住宅に対する評価の不満率より高いのである。図4-2は住宅と住環境の各要素に対する評価結果を示したものである。先ず、住宅に対する不満率(非常に不満+不満)平均は41.5%、住環境に対する不満率の平均は43.5%を占め、4割超の需要者が不満を示している。 

 次に、住宅の各要素に対する評価では、「高齢化等への配慮(56.5%)」「換気性能(51.7%)」「外部騒音等に対する遮音性(50.6%)」が不満率50%以上、「収納空間(49.4%)」「住宅の腐食・損傷の程度(43.5%)」「火災時の安全性(42.4%)」が不満率40%以上となっている。

最後に住環境の各要素に対する評価では、「緑地・水辺等の自然環境(60.0%)」「騒音・大気汚染等の程度(51.8%)」が不満率50%以上、「まわり道路の歩行時の安全(49.4%)」「敷地の広さ・採光・通風等の空間のゆとり(47.1%)」「子供の遊び場・公園(44.7%)」「近隣の人たちとの交流(44.7%)」が、不満率40%以上となっている。こうした評価より、特に住宅内では高齢化関連の利便性と空気・音環境関連の保健性、また、住宅の外部では自然環境関連の快適性に改善余地があるといえる。

図4-2 需要者の住宅及び住環境の評価(N=85) 

(2)住宅購入の目的と困難点
 需要者に住宅購入の目的と困難点に関する項目の中で二つを選んで順位を付けてもらったのが図4-3である。先ず、住宅購入の目的は、「資産形成のため(契:63.8%>訪:46.9%)」が最も多くのであり、「さしあたり不便はないが良い住宅に住みたいため(契:39.4%<訪:46.9%)」「高齢期にも住みやすい住宅や環境にするため(契:34.9%>訪:3.1%)」「子供成長や教育のため(契:16.5%<訪:18.8%)」と続いている。需要者は、主にこれからの生活に備えるため、住宅を購入しているといえる。次に、住宅購入の際に困難点は、「預貯金や返済の能力の不足 (契:61.7%<訪:73.6%)」が最も多く、「気に入った住宅がない(契:32.3%≒訪:32.1%)」「住宅の物件に関する情報が得にくい(契:17.3%>訪:16.3%)」と続いている。需要者は、主に経済的負担を懸念しており、物件の不足も示しているが、物件に関する情報不足はあまり示さなかった。しかしながら、設問票調査の自由記入欄では、全17件の回答中の7件が情報提供関連の回答であった。需要者は充実な情報開示や透明性を求めており、また、資産価値を強く意識した住宅購入より、現実性にあわせて必要な住宅を購入することができるように品質、環境、価格等の適正な住宅情報をもらいたいとの意見もあった。更にインタビュー調査では、住宅選択において供給者のブランドや近隣施設等が重視しているとの意見が見られた。 

図4-3 住宅購入の目的(左)と購入の際の困難(右)(N=85)

第4章 韓国の分譲集合住宅需要者の住宅選択と住宅性能に対する意識/4.2 K物件の需要者の住宅選択の意識と住宅性能表示制度の浸透の実態/4.2.1 K物件の特徴

  K物件の供給者は、中堅会社であるが、民間ディベロッパーの中でメジャー級といわれている。新進会社だから住宅市場において会社名より住宅商品のブランド戦略により高級なイメージや認知度を上げてきた。K物件は、韓国の中部地域の60万人口の中規模都市に位置しており、近年大都市のマンションの高級化が地方の住宅市場への移行を示すことができる。そのため、K物件の分譲価格は、周辺の物件より高い[1]。供給者は、K物件を含め、住商やアパートと百貨店、病院、学校、公共施設、公園等で構成される多機能複合団地を目指している。今回の分譲戸数が2,000戸を超え、住宅性能表示制度の義務対象となっている。供給者は、現場の周近にモデルハウスを建設し管理・監督を行っているが、契約及び案内業務は分譲業務代行の専門業者に委託されている。需要者は自由にモデルハウスの見学することができ、分譲カタログやパンプレット等ももらうことができる。しかし、敷地周辺や地域情報等が多く、住宅性能評価を受けた物件にもかかわらず評価書情報を確認することができなかった[2]。

図4-1 K物件の施工現場とモデルハウスの内部 


[1] K物件の概要を下記にようになる。分譲方式:先分譲後施工、分譲開始・入居予定:2007年3月・2010年末、分譲価格:約1100万WON/坪(周辺分譲アパート:約800万WON/坪)、形態・敷地面積:住商複合(共同住宅)団地・67,934㎡、構造・規模:RC造・地下3層・地上37-45層、住戸数:2164戸、住棟:タワー型・9棟、・住戸タイプ:38・49・59・63・77坪、その他:外部空間及び住民共同施設等。
[2] 「住宅法(第21条の2)」に基づき、住宅性能表示制度の義務対象は、性能評価を受けることと、性能事項の等級を「入居者募集公告」に掲示することが義務づけられている。事業主体は、分譲する5日以前に入居者募集公告を日刊新聞等に掲示しなければならない(住宅供給に関する規則(第8条)より)。その内容には、住宅性能等級表示とともに事業主体名、施行業者名、物件情報、入居者へ融資支援、手続き、分譲価上限制適用住宅の分譲価格公開(宅地費・工事費、間接費等)等が定められている。なお、入居者募集公告に住宅性能等級が開示されなかったことに対し、K物件の供給者は、手続上の誤りを認めており、行政から指摘を受けた。

第4章 参考文献-References

参考文献

1) 李炫尚・高田光雄・金洙岩:長期耐用型集合住宅の供給における行政の技術的制御に関する研究-韓国の住宅性能等級表示制度を中心に-,日本建築学会大会学術講演梗概集F-1分冊,pp.1273-1274,2006.9

2) 李炫尚・高田光雄・高井宏之・金洙岩:韓国の住宅性能表示制度に対する供給者の評価と課題,日本建築学会計画系論文集620,pp.151-158.2007.10

3) 李炫尚・高田光雄・高井宏之・金洙岩:韓国の住宅性能表示制度に対する供給者の評価と課題,日本建築学会計画系論文集620,pp.151-158.2007.10

4) 李炫尚・高田光雄・高井宏之・金洙岩:日韓における住宅性能表示制度の成立と集合住宅の供給者の受容,日本建築学会計画系論文集634,pp.2717-2724,2008.12

5) 高井宏之:住宅性能表示制度(共同住宅)に関する需要者の受容と評価の実態,都市住宅学47号,pp.95-100,都市住宅学会,2004

6) 高井宏之・高田光雄:品確法の住宅性能表示制度(共同住宅)の供給者・需要者への浸透と評価に関する研究,第11回(平成14年度)研究助成成果報告,pp.425-444,(財)トステム建材産業振興財団,2005.3

7) 国土研究院HP:2006年度住居実態調査-研究報告書(建設交通部,2007.4),,国土研究院,(参照2008-8)

8) Valérie Gelezeau(訳:Gil H.Y):アパート共和国-フランス地理学者がみた韓国のアパート,フマニタス,2008(5刷),(邦題)

9) 全相仁:アパートに狂う-現代韓国の住居社会学,イスブ,2009(2刷),(邦題)

10) 藪下史郎:非対称情報の経済学,光文社新書,2006(4刷),pp.78-148

11) 韓国不動産情報協会・他:不動産情報の管理及び利用に関する法律制定のための公聴会の資料,2006.7.7,(邦題)

12) 住環境の計画編集委員会:社会のなかの住宅,彰国社,1988,pp.34-41

13) 日本建築学会編:建築環境マネジメント,彰国社,2004,pp.23-31

14) DC.North(訳:竹下):制度・制度変化・経済成果,晃洋書房,2004(5刷)

15) 国家法令情報センターHP:「住宅法」「住宅供給に関する規則」「住宅建設基準等に関する規定」,,法制処,(参照2009-8)

16) 日本住宅協会:住宅需要動向住宅需要実態調査の結果-「昭和63年」・「平成10年」,日本住宅協会編,1988,1998

17) 国土交通省HP:平成15年 住宅需要実態調査の結果(2004.9.3),住宅局住宅政策課,(参照2008-8)

18) 国土交通省HP:平成15年度住宅市場動向調査(住宅性能表示アンケート)の結果について(2004.12.28),住宅局住宅生産課,(参照2008-8)

19) 国土交通省HP:「平成17年度」・「平成16年度」住宅市場動向調査(住宅性能表示制度アンケート)結果の主要なポイント,(参照2008-8)