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2010/03/24

第1章 序論/1.1 研究の背景/1.1.4 日本と韓国の住宅事情の比較

(1)住宅政策
住宅供給体制はそれぞれの国情や住宅問題への対応の歴史によって異なる展開をとっているが、日本は西欧の社会的供給体制を、韓国はアメリカの商業的供給体制をモデルに自国の住宅供給体制を構築し住宅の量的不足を解消してきたといえる[1]。当然に住宅供給体制を支えた住宅政策も異なるものであった[2]。
日本の住宅政策は、住宅金融公庫、公営住宅制度、日本住宅公団等の政策手法を柱として、住宅及び住宅資金の直接供給を行ってきた。住宅建設計画法(1966-2005)の下、住宅建設五箇年計画の着実な実施を通じて住宅の量の確保を図り、住宅不足の解消や居住水準の向上等に一定の成果を上げてきた。即ち、日本の行政(公共)は直接的な技術・経済的制御(直接的手段)を中心に行い、住宅政策の機能を果たしたといえる。これに対して韓国の住宅政策は、住宅建設促進法(1972-2003)、民間資金、民間建設会社等の政策手法を柱とし、住宅及び住宅資金の間接供給を行ってきた。住宅建設促進法に基づき行政は、分譲価格・許可等の住宅事業を間接的な制御をしながら、特別住宅供給計画を通じて短期間内に量的確保を図り、深刻な住宅不足の解消及び居住水準の向上等に一定の成果を上げてきた[3]。即ち、韓国の行政は間接的な技術・経済的制御(間接的手段)を中心に行い、住宅政策の機能を果たしたといえる。しかしながら、高田(1991)によると、間接的手段と直接的手段は必ずしも対立的に考えるべきでないが、間接的手段は直接的手段に比べて手段適用の効果と病弊について不確実性が高いため、間接的手段に大きく依存することは難しいと指摘している。これは、韓国のLIM(2002)が指摘したように主に間接的手段に依存した韓国の住宅政策が投機性資金の流入の中で規制と緩和を繰り返し、一貫性を維持することができなかったという点と、相通ずることがあるといえる。さらに、民間企業や民間資金のエネルギーの活用による効率性が認められるが、経営的な有益な特定タイプに集中し、住宅政策の機能においても問題が露呈したと考えられる[4]。
一方、岸本(1986)[5]によると、日本の住宅政策は住宅政策を機能させるための支援制度を用意していない事情から放任型に近いと指摘されている。反面韓国の住宅政策は支援型に近いといえ、これらを両国にとって問題視する必要があろうと考えられる。特に韓国の場合は2000年度以降、質の時代に向け、量の時代を導いた開発一辺倒の法・制度を整備しながら住宅政策の社会福祉的機能を図っているが、上述したように市場ベースの住宅供給体制の根本的な限界のため、従来の政策形態を大きく外れてはいない。例えば、住宅政策の転換に向け「住宅建設促進法」を代替した「住宅法(2003)」は住宅の質的な向上を図っているが、住宅供給の拡大も同時に狙っているので従来の住宅建設促進法を継承しているといえる[6]。一方、日本では成熟社会とストックの時代に進行する中で新しい住宅政策への転換に向けた「住生活基本法(2006)」が制定された。これに基づき、良好なストック形成向けた市場重視やストック重視のための住宅政策の役割が見直されており、その中で住宅市場環境整備が重要な課題となっている。特に供給者と需要者の役割及び責任等が強調されている中で住宅性能表示制度の活用が高くなっているといえる。

表1-6 日本と韓国の住宅事情[14]

(2)住宅のストック
表1-6は日本と韓国の住宅ストックとフロー事情を整理したものである。先ず、住宅の量的側面から見ると、日本の場合は全国基準で1968年に「一世帯一住宅」を実現した(都道府県基準で1973年)。近年の「2003年度住宅・土地統計調査[7]」によると、世帯数約47,000千世帯に対し、住宅の総数が約54,000千戸となっている。持ち家は61%、戸建は57%(戸建の93%が木造)[8]、分譲マンションは10%を占めている。それに対し韓国の場合は、2002年度に住宅普及率100%を達成したといわれたが、「2005年度人口住宅総調査[9]」によると、世帯数約16,000千世帯に対し、住宅の総数が約13,000千戸となっており、統計的に未だ量的不足の状況にある。総世帯数の中で持ち家は56%であり、住宅ストックの中で集合住宅は67%となり、特にアパートの割合(53%)が高く、RC造の壁式で建てられたアパートへの偏重が顕著である。

次に住宅の質的側面をみると、日本の場合は1戸当たり居住室数4.73室、1住宅当たり床面積94.9㎡、1人当たり床面積36㎡である[10]。また、1981年度以後に建てられた住宅ストックは57.8%を占めており、住宅が取り壊されるまでの平均築後経過年数は日本では30年といわれている[11]。韓国の場合は、1住宅当たり居住室数4.8室、1人当たり床面積24.8㎡となっている。また、1980年度以後に建てられたストックは約87%を占めている[12]が、1990年代の活発な建替え・再開発事業によって住宅寿命は20年前後になったといわれている[13]。

(3)住宅のフロー 
日本の住宅投資は1997年以降、10兆円後半に対し、対GDP比は4%台にまで減少し、2001年以降は3%後半の水準となっている[15]。勤労者世帯の住居費支出割合(住居費=住居費/実収入)は1997年以降漸増傾向にあり、2003年は11%に達している。首都圏住宅価格(住宅価格の年収倍率)は1990年に年収の8倍に達したが、その後の地価下落を反映し、近年マンションの場合は5倍台になっている。一方、韓国の住宅投資において対GDP比は1991年の8.9%をピークに減少し、2005年は5%台(37兆ウォン)になっている[16]。なお住居費負担(月所得対比賃貸料比率:RIR)は17.3%(ソウル:21.0%)、首都圏住宅価格は(年所得対比住宅購入価格比率:PIR)は5倍(ソウル:7.7倍)になっている[17]。 
住宅供給については、日本の場合(新築住宅着工戸数)、バブル景気期には年間160∼170万戸の高水準であったが1997年度以降は、110∼120万戸の水準となっている。2003年度には、戸建住宅50万戸(42%)、分譲マンション16万戸(14%)、賃貸住宅46万戸(39%)が供給されている[18]。韓国の場合(新築住宅建設戸数)、1990年から1997年度まで年平均60万戸以上が供給されたが、1997年度の経済危機(外貨危機)以後には大きく落ち込んだ。2000年度から年平均50万戸の水準で回復したが、2005年度には戸建住宅3万戸(6%)、アパート42万戸(90%)となる。 韓国の場合は、1970年代末から民間住宅の分譲価格が統制されてきた(住宅建設促進法の改正,1977.12)。分譲価格の規制は、経済成長と所得水準の向上に伴う質的ニーズに対応できず、市場機能の歪曲、住宅部品産業の発展の阻害等をもたらしたといわれる。1999年から民営住宅に対する分譲価格が自由化されたが、本格的に住宅の商品化(ブランド化)及び高級化が進み、分譲価額も高くなった。


[1] 参考文献4)によると、資本主義社会の住宅供給体制を大きく見ると、社会住宅を供給してきた西欧の「社会的供給体制」と、自律的市場機能に依存しながら財政・金融的手段を通じて政策目的を追求したアメリカの「商業的供給体制」に分けており、これらは国家財政をもとに住宅を供給した「福祉住宅供給体制」といっている。しかし、韓国の場合は、民間資本をもとに住宅市場の統制を通じて住宅政策の目標を達成すると意味から西欧やアメリカの福祉住宅供給体制とも区別され、「国家主義供給体制」や「統制市場体制」といっている。
[2] 岸本幸臣(1986)は国民の住宅の供給を、公共機関が一定の政策目標をもって支援する時、そうしたことの制度や支援体系を「住宅政策」とし、住宅の供給主体によって「公共主導型」、「民間主導型」、「第3セクター型」で政策を分類している。高田光雄(1991)は住宅政策の主要な機能を、目標設定という観点によって「社会福祉的機能」、「社会資本形成的機能」で2つが存在し、主体を制御するための間接的手段・直接的手段をあげられている。間接的手段というのは行政が主に建設、管理、所有等の基本機能を民間に任せ、各機能を間接的な技術的・経済的方法(法律規制及び緩和、インセンティブ制度等)を通じて制御することを示す。反面、直接的手段というのは、国が建設、管理、所有等の基本機能を直接に担い、直接的な技術的・経済的方法を通じて制御することを示す。
[3] 参考文献4)によると、例えば、1972年度の250万戸10個年計画、1980年度の500万戸、1988年度の200万戸建設計画が挙げられることができるが、実際に大きな成果を上げた計画は200万戸建設計画である。
[4] 社会資本形成的機能面から考えると、「1980年初から導入された壁式構造は、経済・施工性がよいため、以後の高層集合住宅(アパート)で採用され、現在ほとんどがこの方式で建設されている。なお1998年から壁式共同住宅の標準設計(内法巣寸法)が行われ、住宅部品産業の発展を図っている。しかし、供給された壁式アパートでは平面の画一化・固定化が著しくて、修理の容易性も十分に考慮されなかったことが明らかになった。また、主に分譲住宅の供給の政策を行い、賃貸住宅は少ない(ストックの8%,2003)状況であり、国家財政による低所得層のための福祉的機能面も十分ではないといわれている。
[5] 参考文献41)
[6]「住宅法」は量の確保を図った従来の「住宅建設促進法」を、住宅の質の時代に対応させるために全文改正(2003.5.25)したものである。住宅建設促進法(1972.12.20制定)は大統領令(特別法)であり、政府に公共住宅だけでなく、民間住宅に対しても開発・施工計画及び分譲まで管理できるようにする権限を与えた。改定後も、ほとんど既存の役割を継承し、住宅の建設・供給・管理、そのための資金・運用等に関する事項を定めている。ただ、建替え事業の部分は「都市及び住居環境整備法(2002.2)」に分離された。
[7] 参考文献54)
[8] 参考文献54)によると、総ストック中で木造が61%、非木造が39%となっている。また、参考文献51)によると、特に戸建て住宅の約70%は伝統的な在来工法の木造軸組であり、その供給の大半は中小業者が担っていると記述されている。
[9] 参考文献3)
[10] 参考文献55)
[11] 参考文献54)
[12] 参考文献3)
[13] 住宅産業研究院の資料(2000)によると、ソウル市での1990-1998年間に建替え住宅の寿命は、16-20年が84.7%であり、20年以上は15%の割合を占めている(Houzine vol.64,住宅都市研究院,2005.10,再引用し作成)。
[14] 参考文献3),6),54),55)を参考・引用し作成した。韓国の住宅寿命の場合、近年の法規定による建替えの年限は、「都市及び住居環境整備法施行令(2003.6.30)」第2条2項1により20年以上(市道条例によりその以上が可能)となる。ソウル市(ソウル特別市都市及び住居環境整備条例,2003.12.30制定)の共同住宅の場合は、竣工年数に応じた差別適用より20年から40年以上となっている。また韓国の長期賃貸は5年以上の賃貸住宅を指す。
[15] 参考文献54)
[16] 参考文献5)
[17] 参考文献56)
[18] 参考文献8)