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2010/03/24

研究内容の要旨

韓国における住宅性能表示制度に受容に関する研究
-日本の住宅性能表示制度との比較による-
李 炫尚(LEE Hyunsang)

本論文は、住宅市場の情報非対称性の問題に着目し、制度・情報経済学的観点と社会調査方法を援用し、日本の住宅性能表示制度との比較研究を通じて、韓国の住宅性能表示制度の成立、利害関係者の受容実態、評価書情報の流通実態を明らかにするとともに、情報非対称性の要因と住宅性能表示制度のあり方について考察したものであり、7章からなっている。

第1章は序論であり、韓国における住宅の商品化の問題、情報非対称性の問題、制度の受容をめぐる問題等の視点から、住宅性能表示制度という研究主題について論じている。また、日本と韓国における住宅性能表示制度に関する既往研究をレビューし、本研究の位置付けを明らかにした上で、研究の目的とその目的を達成するための課題設定及び研究の枠組みを提示している。

第2章は、韓国の住宅性能表示制度による市場補完の特性を明らかにしている。先ず、文献考察により、韓国の住宅供給政策の社会資本形成的・社会福祉的機能と住宅問題の特徴を解明している。次に、制度導入の要因として分譲住宅価格の高騰、居住性をめぐる紛争の増加などを取上げたうえで制度の枠組みを明らかにしている。さらに、それらを日本の制度の導入要因や枠組みと比較考察し、情報経済学的観点より韓国の制度は性能情報の公開、日本の制度は性能情報の信頼に着目し市場補完が行われていることを明らかにしている。

第3章は、韓国の住宅供給者を対象とした制度に対する意識と評価に関する調査結果を分析し、韓国の住宅供給者の制度受容の実態と問題点を明らかにしている。供給者は住宅事業においてはブランドイメージを最も重視しており、制度利用に消極的であるが、物件の特長や差別化の手段として利用する可能性はあることを指摘している。制度の全体的評価については、導入の時期・義務化などに対する否定的な意識を示している。また、性能項目や評価基準などに改善余地があることを示している。以上に基づき、義務制、表示項目と評価方法の適切性、紛争発生の可能性などについて、問題点及び課題を明らかにしている。

第4章は、K物件(認定物件)の需要者を対象として住宅需要及び選択等の意識調査などを行うことにより、韓国の需要者の制度受容の実態を明らかにしている。需要者は住宅購入の目的や意思決定において資産形成を最も重視しており、建築費・見積情報を強く求めているが、情報は主に供給者の情報媒体に依存している。また、住宅性能に関しては、需要者の理解不足と供給者の説明不足が指摘されている。更に制度に対する需要者の認知度は低いこと、供給者の情報開示が不十分であること、これらのことが情報非対称性の要因となっていることが明らかにされた。以上から、住宅性能表示制度の普及促進に向けた運用・充実・基盤的側面の補完の必要性を指摘している。

第5章は、韓国の不動産情報提供者を対象とした意識調査と、韓国と日本における評価書情報の流通調査を通じて、韓国の不動産情報提供者の制度受容の実態と評価書情報の流通実態を明らかにしている。韓国の不動産情報の整備は、民間主導によって主に物件の価格情報や生活情報などがインターネット媒体を通じて流通・蓄積されている。不動産情報提供者は分譲アパートの情報提供において、敷地や敷地周辺の情報を最も重視しており、評価書情報を提供してない。また、制度に対して全体的に否定的である。このような消極的取組みの理由として、評価書情報が得られにくいことが最も多く指摘された。評価書情報の流通実態に関しては、入居者募集公告によって評価書情報が公開されており、主に供給者の情報提供体制によることを明らかにしている。アクセシビリティーが確保されているが、G物件の需要者の認知度調査やモデルハウスの現場調査により、需要者の低い認知度、供給者の消極的取組みが再検証されている。一方、日本の評価書情報の流通実態を検討した結果、評価書情報は流通しているが、アクセシビリティーに関する問題が把握された。

第6章は、韓国と日本の住宅供給者の意識及び評価の比較考察より、両国の住宅性能表示制度の受容の特性と制度の発展段階を明らかにしている。先ず、日本の供給者は物件の信頼に、韓国の供給者は物件の特長に着目しているという制度の受容特性を指摘した。次に、日本では、情報の信頼性が供給者に受け入れられており、制度の補完も対応しているため、第2段階(物件や企業の信頼)にあること、韓国では、情報の信頼性に関する制度の仕組みが未だ十分でないため、第1段階(情報提供体制の構築)にあることを示している。

第7章は、前章までに得られた知見とともに、韓国の住宅性能表示制度の成立、供給者・需要者・不動産情報提供者の制度受容、評価書情報の流通、制度の普及段階をまとめ、韓国の新築住宅市場における情報非対称性の要因の解明と住宅性能表示制度のあり方について考察し、本論文の結論としている。